【2017年6月14日】毎日新聞に夜回り活動に関する記事が掲載

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2017年6月14日付け毎日新聞に、つくろい東京ファンドの夜回り活動に取材した記事が掲載されました。稲葉のコメントも出ています。

https://mainichi.jp/articles/20170614/org/00m/010/006000c

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<ホームレス自立支援法>延長へ 困窮、路上で屋内で ネットカフェの若者SOS

 

路上生活者の雇用や住居確保、全国的な実態調査を定めたホームレス自立支援法について、期限の2027年までの延長を定める改正案が13日、参院厚生労働委員会で可決され、14日の参院本会議で成立する見通しとなった。【西田真季子】

同法に基づき国が調べて確認した路上生活者は5534人(17年1月現在)。初調査(03年)の2万5296人から大幅に減少したが、依然として路上で厳しい生活を送っている人たちがいる。

12日夜、生活困窮者への支援やシェルター事業を行う一般社団法人「つくろい東京ファンド」(東京都中野区)の夜回り活動に同行した。同ファンドの代表理事、稲葉剛さん(47)は1994年から新宿区を中心に野宿者の支援活動に携わってきた。

午後8時前、稲葉さんはボランティア約20人と事務所を出発した。この日は、月1回行っている中野区での活動日。近くの公園に着くと、暗闇の中で大きな荷物を抱えて歩き回る初老の男性や、空き缶を集めたゴミ袋を手にベンチに座る60代ぐらいの男性などの姿が見えた。稲葉さんらはレトルト米やお菓子、支援先を書いたチラシなどが入った袋を、1人ずつ手渡して歩く。広場に横たわっていた30代前後の男性は「このところ、ずっと外で寝ている」と疲れた様子で話した。この日、稲葉さんらは6人に物資を配り、同9時過ぎ、夜回りを終えた。

稲葉さんは「20年の東京五輪の影響もあり、公園や道路の管理が厳しくなってホームレスの排除が進み、支援のアプローチも難しくなっている」と言い、実態調査やホームレスの人権への配慮を国の責務とする同法の延長を歓迎する。

一方で、同法はホームレスの定義を屋外生活者に限定しているが、路上以外にもホームレス状態の人は増えている。この日、ボランティアで参加した男性(30)は以前、ネットカフェなどで生活しており、所持金が数千円になった3カ月前に都内の炊き出しで同法人とつながった。現在は自立へ向けて、同ファンドのシェルターで暮らしている。稲葉さんは「路上生活の手前であるネットカフェや脱法ハウスなどに暮らす『ハウジングプア』状態の若年者の調査も必要だ」と指摘する。

■ことば

ホームレス自立支援法
2002年に10年間の時限立法として施行され、12年に5年間延長された。路上や公園、河川敷などで屋外生活をする人を「ホームレス」と定義し、全国調査と基本方針の策定を国に義務づけた。一時宿泊や巡回相談、アフターフォロー、自立支援センターなどを国の責務で実施してきた。施策の一部は15年4月施行の生活困窮者自立支援法に盛り込まれた。

 

※関連記事:【2017年4月12日】 毎日新聞「論点」欄にホームレス自立支援法に関する意見が掲載 

※関連記事:夜回りボランティア募集のお知らせ(2017年6月、7月) 

【2017年6月4日】信濃毎日新聞社説「住まいの貧困 人間の尊厳守るために」にコメント掲載

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2017年6月4日付け信濃毎日新聞の社説に稲葉のコメントが掲載されました。

 

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170604/KT170603ETI090001000.php

あすへのとびら 住まいの貧困 人間の尊厳守るために

生活に困窮した高齢者が行き場を失い、劣悪な居住環境の下で暮らすことを余儀なくされる―。北九州の古い木造アパートが燃え、6人が死亡した先月の火災は、“住まいの貧困”の現実をあらためて映し出した。

一昨年、川崎の簡易宿泊所で起きた火災では、11人が死亡している。日雇い労働者が集まる「寄せ場」に建てられた宿泊所が、生活保護を受けて暮らす高齢者の受け皿になっていた。

北九州のアパートも、実態は簡易宿泊所に近かったようだ。敷金も保証人も要らず、日割りの家賃で入居できた。住んでいた人の多くは生活保護受給者や日雇い仕事の収入で暮らす人だった。

惨事はほかにも相次いでいる。2011年には東京・大久保の木造アパートが燃え、単身の高齢者ら5人が亡くなった。09年、群馬の老人施設の火災では10人が死亡した。ずさんな運営の無届け施設に、東京の自治体が生活保護受給者を送り込んでいた。

<若者の状況も厳しく>

身寄りのない高齢者が住まいを探すのは難しい。家賃の滞納や孤独死を嫌って、入居を拒む家主や業者は多い。一方で、家賃が安い公営住宅は不足し、介護施設にも空きがない。

それが“貧困ビジネス”をはびこらせる土壌になっている。狭い部屋に押し込めて生活保護費を巻き上げる悪質な無料・低額宿泊所は典型だ。貧しい人たちが、宿泊所や無届けの施設に吹き寄せられている構造的な問題がある。

高齢者だけではない。「路上生活一歩手前の若者が少なくない」。困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」の代表理事を務める稲葉剛さんは話す。

アパートの家賃が払えず、24時間営業のインターネットカフェなどで寝泊まりする人が非正規雇用の拡大とともに増えた。ブラック企業で過酷な労働を強いられて心身を病み、働けなくなって住む場所をなくす人もいる。

住まいを失うと、困窮から抜け出すのはなおさら難しくなる。人間関係が途切れて孤立しがちで、支援にもつながりにくい。

〈すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する〉―。憲法25条が定める生存権の保障には、人が暮らすにふさわしい住まいの確保が何よりも欠かせないはずだ。

けれども、そのための制度や政策は乏しい。最後の安全網である生活保護の住宅扶助さえ、政府は15年から基準額を引き下げた。生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金は、対象が離職者に限られ、低賃金で働く若者や、働けない高齢者は利用できない。

より根本的な問題として、住宅政策が福祉政策として位置づけられてこなかったことがある。住宅は国土交通省、福祉は厚生労働省という縦割りの弊害も大きい。

<社会の土台が崩れる>

この国会で成立した「改正住宅セーフティーネット法」は、現状を変える一歩になるかもしれない。空き家や空き室を都道府県ごとに登録する制度を新たに設け、高齢者や低所得者、子育て世帯などの入居につなげる。

ただ、課題は多い。家賃負担を軽減する補助制度は条文に明記されなかった。住まいの貧困に陥った人を広く助ける仕組みにできるかは心もとない。自治体が主体的に取り組むかにもかかる。

住居は、人間の尊厳を守る基礎であり、社会の基盤である―。神戸大名誉教授の早川和男さんは著書「居住福祉」で述べている。

住居が劣悪では、高齢化社会を支える在宅福祉の充実はおぼつかない。安心して暮らせる住まいという土台なしに社会保障や福祉は成り立たない。地域社会の人のつながりも住居が核になる。

住まいの貧困は大都市圏だけのの問題ではない。地方でも住宅費の負担は重い。年老いて維持費用が賄えなくなり、壁がはがれ落ちた家に住み続ける人もいる。少ない年金の大半がアパート代に消える単身の高齢者の嘆きも聞く。

非正規雇用は拡大し、未婚率も上がり続けている。このままだと、単身で低年金、無年金の高齢者は大幅に増えていく。それに伴って、住まいの貧困は一層深刻な問題になるだろう。

一人一人の生きる権利を守ると同時に、社会を成り立たせていく基盤として、誰もが住む場所に困らないよう支える確かな仕組みをつくらなくてはならない。

福祉の観点から住宅政策を抜本的に組み直す必要がある。欧州各国は、住宅手当や家賃補助制度によって高齢者や低所得の人を支えてきた。学ぶことは多い。

国の制度や政策とともに、住民に近い自治体に何ができるか。貧困の実態をまずはつぶさに捉え、具体的な手だてを考えたい。

 

※関連記事:改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

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