6 月29日(月) 講演会「脱・住まいの貧困 貧困の現場から社会を変える」

講演・イベント告知

記念講演会「脱・住まいの貧困 貧困の現場から社会を変える」

このたび中野社会保障推進協議会は、2015年度総会開催にあたり、記念講演会「脱・住まいの貧困 貧困の現場から社会を変える」を開催いたします。

近年の貧困の背景に、非正規労働・ワーキングプアにみられる雇用の劣化と住まいの貧困があります。ホームレス、ネットカフェ難民、脱法ハウスと貧困ビジネス、派遣切り、若者が苦しむ家賃負担。どれも住まいの貧困です。たまゆら火災・川崎市の簡易宿所の火災で改めて生活困窮にある高齢者が安心できる住まいも少ないことが明らかになりました。生活保護の住宅扶助削減も忍び寄っています。

《住まいは人権》と考え、自立支援をすすめる稲葉剛氏が今、新たに挑戦を始めています。中野区に個室型シェルターをつくり、路上生活者や生活困窮者を救うとともに社会に新たな支援モデルを示そうとしています。住まいの貧困に抗して、どう社会を変えるのか、について生活困窮者自立支援法に関する課題についてもふれながら、ご講演いただきます。

ぜひご参加ください。

・日時 2015年6月29日(月) 18:30-20:30 
・会場 中野区産業振興センター (旧・中野区勤労福祉会館) 3階大会議室
  〒164-0001 東京都中野区中野2-13-14 JR中野駅南口下車徒歩4分
  アクセスマップはこちら。

・テーマ 「脱・住まいの貧困 貧困の現場から社会を変える」
・講師 稲葉 剛 (いなば つよし) 氏
一般社団法人つくろい東京ファンド 代表理事
認定NPO法人自立生活サポートセンター もやい 理事
住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人

・参加費 500円 予約不要・直接会場へ 定員100人(先着順)

主催:中野社会保障推進協議会
東京都中野区中野3-3-1 城西診療所内

単身・低所得の高齢者が安心してアパート入居できる仕組みを!

提言・オピニオン

5月17日に川崎市で発生した簡易宿泊所火災は、26日に入院していた男性が亡くなったため、死者が10人まで増えました。
現在、各マスメディアが火災の背景にある「住まいの貧困」に関する取材を進めていて、私のところにも数社が取材に来ています。
劣悪な居住環境で暮らす単身・低所得の高齢者が犠牲になる火災は、2009年の「たまゆら」火災、2011年の新宿区木造アパート火災など、過去にも何度も繰り返されてきました。
そのたびに単身・低所得の高齢者が「住まいの貧困」に陥っている状況は報道されていたのですが、残念ながら根本的な改善策は取られてきませんでした。
今回の火災をきっかけとした議論が一過性のものに終わらず、住宅政策の転換を促すものになることを心より願っています。

本来、生活保護利用者の一時的な居所であるはずの「ドヤ」(簡易宿泊所)に、多くの高齢者が長期滞在している問題の背景には、福祉事務所が高齢者をアパートに移すことに消極的であるという問題があることを私は指摘してきました。
私が理事を務める認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいは、この問題に関して、厚生労働省に緊急要望を提出しました。

簡易宿泊所等に滞在する生活保護利用者への支援に関する緊急要望

アパート入居のハードルが高い

ただ、アパート移行が進まない背景には、こうした「送り出し側」の問題とともに、「受け入れ側」の問題もあります。

「契約者(借主)が単身で入居される方の保証人は、契約者(借主)が病気で倒れ、誰も気づかないまま、死亡される事故が多発しておりますので、常に連絡を取り合い、安否を確認してください。死亡されて時間が経過しますと、貸主・近隣に迷惑を及ぼすばかりでなく、部屋全体を原状回復することとなり、莫大な費用負担が掛かりますので充分注意して下さい」

これは、以前、NPO法人もやいで、80代の男性のアパート入居の連帯保証を引き受けた際に、不動産店から提示された連帯保証人確約書の文面の一部です。
この男性は以前暮らしていた東京都内のアパートが老朽化により取り壊しになったため、転居をせざるをえなくなりました。しかし、不動産店を何軒回っても、高齢を理由に入居を断られ続け、地元の区役所がおこなっている住宅相談の窓口で相談。ようやく入居できる物件を見つけることができました。

しかし、その物件は二年間の定期借家契約で、上記の内容を盛り込んだ連帯保証人確約書に保証人がサインをすることが条件になっていました。
私たちが確約書にサインし、彼はようやく転居することができました。しかし、定期借家契約では、契約期間が終われば、居住権が自動的に消滅するため、二年おきに居住が継続できなくなるリスクが生じます。彼が寝たきりになり、孤独死の危険が高まったと家主が判断すれば、大家が再契約を拒否することも可能だからです。

NPO法人もやいでは、2001年からの14年間に、約2350世帯の連帯保証人提供をおこなってきましたが、単身高齢者のアパート入居のハードルは年々上がってきているように感じています。

アパートに入居できない高齢者はどこに行くのでしょうか。その答えの一つが「ドヤ」ということになります。大都市では高齢者向けの福祉施設も不足しているため、高齢者の居住環境としてはふさわしくない「ドヤ」に多数の単身高齢者が滞留するという状況が生まれているのです。

国土交通省が「安心居住目標」を発表!

川崎の火災が起こる一か月前の今年4月17日、国土交通省の安心居住政策研究会は「中間とりまとめ」を発表し、2020年度までの「安心居住目標」として、高齢者、子育て世帯、障害者の入居に拒否感を持つ家主の割合を半減する、という数値目標を掲げました。

安心居住目標

日本賃貸住宅管理協会が2010年に実施した調査では、高齢者世帯の入居に「拒否感がある」と回答した家主は59.2%にのぼり、障害者のいる世帯、小さな子どものいる世帯に対しても、それぞれ52.9%、19.8%が「拒否感」を示していました。こうした現状に対して、同研究会は2020年度までの到達目標として、高齢者及び障害者のいる世帯については30%以下、子育て世帯は10%以下まで、家主の「拒否感」を減少させるという目標を設定したのです。

しかし、この数値目標に対して、不動産業者や民間賃貸住宅の家主の間では、戸惑いが広がっていると言います。どのような方法でこれらの世帯の入居を促進していくのか、という具体策が「中間とりまとめ」の中ではほとんど示されていないからです。

国土交通省は、住宅セーフティネット法に基づき、全国各地の自治体に設置されつつある居住支援協議会の活動を活性化させることにより、これらの世帯の入居を円滑にできると説明しています。各自治体の担当課、不動産関連団体、居住支援をおこなっているNPOなどで構成される居住支援協議会は、現在47の自治体に設置されていますが、国交省はこれを大幅に増やしたいという意向を持っています。

しかし、すでにある居住支援協議会の中には、意見交換のみをおこない、実質的な活動をおこなっていないところも少なくありません。高齢者の入居を円滑にするために必要な家賃債務保証や入居後の見守り、死亡時の家財整理といった分野にまで踏み込んで活動している居住支援協議会は全国に3地域にしかありません。

国土交通省には、数値目標を掲げるだけでなく、厚生労働省や業界団体とも協議し、どうすればこの目標を達成できるのか、具体的に詰めていただきたいと思います。

今から仕組みを作らないと大変なことに

単身・低所得の高齢者が安心してアパートに入居できる仕組みを作っておくことの重要性は、今後、ますます高まっていきます。

本来、高齢者の生活を支えるはずの日本の年金制度の給付水準は、「高齢になるまでに持ち家を取得している」、「夫婦両方の年金収入がある」ことを暗黙の前提にしてきました。

制度設計者たちは「高齢になっても単身で賃貸住宅に暮らしている人たち」がこんなに増えることを想定していなかったのではないでしょうか。

現在、生活保護世帯の約半数を高齢者の世帯が占め、その数と割合は年々増えつつあります。

今の雇用状況は若い世代ほど非正規率が高くなっていますから、将来ますます低年金・無年金の高齢者が急増するのは火を見るよりも明らかです。しかも、非正規の場合、住宅ローンの利用は困難であるため、高齢になっても賃貸住宅で暮らし続ける人たちが増えていくのは必至です。

単身・低所得の高齢者がアパート入居しやすくなる仕組みを今のうちから作っておくことは、将来の社会のためにも必要なことなのです。

ぜひ一過性ではなく、日本の賃貸住宅政策をどうするのか、という議論を巻き起こしていきたいと考えています。

※関連記事:なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?

※関連記事:【2015年5月24日&26日】 朝日新聞:川崎・簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載

 

【2015年5月24日&26日】 朝日新聞:川崎・簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載

メディア掲載

朝日新聞の2015年5月24日付け朝刊と5月26日付け朝刊に、川崎での簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載されました。
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http://www.asahi.com/articles/ASH5R527VH5RULOB00X.html

「最後の居場所」奪った猛火 川崎宿泊所火災から1週間

 9人が死亡し、19人がけがをした川崎市の簡易宿泊所(簡宿)の火災から24日で1週間。全焼した「吉田屋」と「よしの」の周りには、今も仲間の安否を気遣う住民たちが集う。猛火は原因究明も、死者の身元確認も難しくしている。
 23日午前9時。焦げたにおいが漂う現場前には、警察や消防の検証を見守る吉田屋の住民たちがいた。
 「ここに来れば、誰かいる。仲間が無事かを確かめ合うんだ」。1階に住んでいた男性(61)は、近くの別の簡宿から毎日のように足を運ぶ。寝る前になると、天井から落ちてくる火の粉を思い出し、眠れなくなる。心を落ち着かせようと、毎晩、カップ酒を飲み、床につく。
 死者は9人。身元がわかったある男性の遺体は、家族が引き取りを拒否した。「決して珍しいことではない」と市の担当者は言う。
 30軒以上の簡宿がひしめく川崎区日進町の取材を通して浮かび上がってきたのは、「無縁社会」へと突き進むこの国の姿だった。
 キャバレー店長、沖縄の基地関係者、潜水士……。職を転々とし、この街に流れ着いていた。「行く当てなんてどこにもない」。みな異口同音に言った。
 過去は語らず、ともに酒を飲み、カップラーメンを分かち合う。焼け落ちた簡宿は、家族と別れ、すみかを失った人たちが見つけた「最後の居場所」だった。
 市によると、周辺の簡宿には、1300人の生活保護受給者が暮らす。7割にあたる880人は、65歳以上の高齢者だ。
 「結局、ここに押しつけていたのはみなさんじゃないですか」。この街に70年以上住む、ある簡宿の男性経営者は憤った。
 1960年代、大工や作業員といった労働者が中心だった。当時は高度経済成長期。どこの宿も廊下にあふれるくらい人がいた。
 JR川崎駅前にいた路上生活者らを受け入れ始めたのは74年。男性は「川崎大師の玄関口にホームレスがいると見栄えがよくないという声が出て、組合として受け入れた」と振り返る。
 生活困窮者の支援に取り組むNPO「自立生活サポートセンター・もやい」(東京)の稲葉剛さん(45)は今回の火災について「『住まいの貧困』という社会の構造的な問題をあぶり出した」と指摘する。
 生活保護受給者への住宅扶助は、一般的に月5万~6万円。アパートを借りられる金額だが、単身で低所得の高齢者は、孤独死を嫌う家主から受け入れられにくい。「住居の選択肢が少なく、劣悪な環境に追い込まれている」と稲葉さんは言う。
 市が周辺の簡宿49棟を調べた結果、約7割に違法建築の疑いがあった。大の男が立てば頭が天井に届きそうな3畳一間は、宿泊施設としては不適切だった。
 行政も消防も放置してきた街。見て見ぬふりをしてきたのは、私たち自身でもある。(照屋健、村上友里)
■原因究明・身元確認は難航
 失火か放火か。神奈川県警の捜査も進む。
 これまでの調べでは、出火したのは、吉田屋の玄関から3メートルほど入った1階廊下付近。ベニヤの建材の上にウレタンが敷かれ、燃えやすかった。油をまいたような痕跡はなかった。焼け方が激しく、火元となり得るたばこの不始末や古い電気配線なども、確かめられないという。
 犠牲者の身元確認も難航している。判明したのは3人だけ。今後、DNA型鑑定を進める方針だが、血縁のある親族を探し出さなければ照合はできない。「親族との交流を絶っている人や、すでに親族がいない人も多いだろう。どこまでたどれるか」と捜査関係者は話す。引き取り手がない遺体は、市が無縁納骨所に納めるという。(永田大)
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11773605.html

簡易宿に定住、なぜ 川崎火災9人死亡

 川崎市の簡易宿泊所(簡宿)2棟が全焼して9人が犠牲となった火災は、一時的な宿泊先であるはずの場で、生活保護を受ける高齢者らが長年暮らしている現状を浮き彫りにしました。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護。住まいのセーフティーネットはいま、どうなっているのでしょうか。
 ■公営借家、高い倍率
 生活保護を受ける世帯数は、今年2月時点で161万8685世帯。この30年間で2倍以上に増えた。高齢者世帯の増加が目立ち、全体の半数近くを占める。
 受給者の家賃は「住宅扶助」として支給される。地域や家族の人数ごとに上限となる基準額が決まっている。東京23区で暮らす単身者なら基準額は5万3700円だ。基準額内で払える家賃のアパートなどを受給者が探し、実費が支給されるのが原則だ。
 では受給者はどんな住居で暮らしているのか。厚生労働省は昨年、約11万世帯を対象に実態調査をした。持ち家で住宅扶助がいらない人などを除く約9万6千世帯のうち、比較的家賃が安い公営住宅(公営借家)にいる人は2割にとどまり、6割超が民間アパートなどの民営借家だ。公営住宅募集戸数の応募倍率は全国平均で6・6倍、東京都では23・6倍に達する(国土交通省調べ)。受給者にとっても入居のハードルは高いようだ。
 無料低額宿泊所や簡易宿泊所で暮らす受給者は約2%。ただ地域差が大きいと考えられる。高度成長期に多くの建設労働者が集まった東京・山谷地区や大阪・釜ケ崎などには簡宿が密集している。横浜・寿地区には約120の簡宿があるが、横浜市によると滞在者の84%が生活保護受給者だという。
 居住環境でも課題は残る。健康で文化的な住生活を営むのに必要不可欠な面積として、政府は「最低居住面積水準」を決めている。単身者では25平方メートルだ。厚労省調査によると、これを満たす住居割合は、一般世帯が76%に対し、受給世帯(民営借家)は46%にとどまった。受給者のいる簡宿などは床面積が平均6平方メートルで、狭さが目立った。
 こうしたなか政府は7月から住宅扶助の基準額を全体では引き下げる。約4年間で約190億円の国費を削減する方針だ。引き下げ後の住宅扶助額で今の家賃がまかなえなくなる受給世帯は、約44万世帯に達すると見込まれている。一部の受給者が今後、引っ越しなどを迫られる可能性もある。生存権侵害であるとして日本弁護士連合会が引き下げ撤回を求めるなど、批判も強い。
 ■高齢者入居、拒む業者も
 「受給者が10件、20件の物件をあたっても、契約できないことは珍しくない」。東京23区で20年以上、ケースワーカーをしてきた男性(60)は実情をこう話す。
 一人暮らしの高齢者の場合、ハードルはさらに高くなる。孤立死して「事故物件」になることを業者が恐れるからだという。
 「障害者や高齢者で特に単身世帯であることによる入居拒否の実態が一部に見受けられる」。住宅扶助見直しを検討した厚労省審議会が今年1月にまとめた報告書も、そう指摘した。
 2009年。群馬県の無届け高齢者施設「静養ホームたまゆら」で入居者10人が亡くなる火災が発生した。この火災も、犠牲者の大半が東京都内の生活保護受給者だった。身寄りがない高齢受給者が、都外の施設に送られている実態が問題となった。
 首都大学東京の岡部卓教授(社会福祉学)は、惨事の背景に「構造的な問題がある」と指摘する。「ケアが必要になってアパートに住めなくなった高齢受給者などは本来、介護施設を利用できるようにすべきなのに空きがない。公営住宅も数が足りない。結果的に行き場のない人が無届け高齢者施設や宿泊所に集まってしまう」
 生活保護受給者のアパート入居を支援する認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京都)。理事の稲葉剛さんは「受給者ら低所得の人に人間らしい住まいを確保するため、縦割りとなっている行政の取り組みを一本化するなど支援を強化すべきだ」と話す。
 生活保護法30条には、受給者はアパートなど居宅に住んでもらうという原則が明記されている。川崎市の簡易宿泊所にいた受給者について稲葉さんは「『彼らは選んであそこ(簡宿)に住んでいた』ととらえず、(居宅の)原則を実現するための支援が足りなかった結果とみるべきだ」。
 生活保護受給者の家賃の上限にあたる住宅扶助の基準額の引き下げについても稲葉さんは「これまでにも増して、住まいの選択肢は狭まってしまう」と心配している。
 (中村靖三郎、久永隆一)

 

なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?

提言・オピニオン

5月17日未明、川崎市で簡易宿泊所2棟が全焼する火災が発生し、9人が死亡、19人が重軽傷を負うという大惨事になりました。

報道によると、2棟に宿泊していた74名のうち70名が生活保護の利用者で、単身の高齢者が多く含まれていたと言います。

簡易宿泊所とは旅館業法に基づく旅館の一形態で、かつては多くの日雇労働者が宿泊し、「ドヤ」(「宿」のさかさま読み)という俗称で呼ばれていました。高度経済成長期に日雇労働者を受け入れるために建設された木造の「ドヤ」の多くは老朽化しており、防火対策も充分に取られていないことが今回の火事で明るみに出ました。

火災が起こった「ドヤ」は2階建てを3階に改築した違法建築であったことが判明しています。

本来、福祉施設ではない「ドヤ」になぜ単身・高齢の生活保護利用者が多数宿泊しているのでしょうか。

私はその背後に、以下の3つの問題があると考えています。

  • 生活保護行政の問題
  • 住宅政策の問題
  • 高齢者福祉政策の問題

その3つの問題を説明する前に、まずはホームレス状態の人が生活保護を利用する際の流れについて説明します。

住まいのない状態に人が生活保護を申請した場合、首都圏では通常、福祉事務所が民間宿泊所か、「ドヤ」に宿泊することを勧めます。

民間宿泊所は、正式には社会福祉法に基づく「無料低額宿泊所」という名称があるのですが、この名称とはほど遠く、大部分は「無料」でも「低額」でもありません。

近年、この「無料低額宿泊所」に、生活保護費のほとんどを天引きしながらも劣悪なサービスしか提供しない「貧困ビジネス」の施設が多数含まれていることが社会問題になっています(一部に良心的な施設もありますが)。

※関連記事 埼玉新聞:<川崎火災>狭い居室密集 無料低額宿泊所、県内入所者も不安

一方、「ドヤ」は旅館業法に基づく簡易宿泊所という位置づけになります。民間宿泊所の多くが宿泊費だけでなく食費も天引きするために、生活保護費のほとんどが手元に残らない仕組みになっているのに対して、「ドヤ」では宿泊費しかかからず、生活費は自分で使えるため、生活保護を申請する人の間では、民間宿泊所より「ドヤ」での生活保護を望む人もたくさんいます。

また、民間宿泊所の多くが相部屋であるのに比べ、「ドヤ」は狭いとはいえ、曲りなりにも個室のところが多いので、個室での暮らしを希望する人が「ドヤ」での宿泊を自ら望むこともあります。

しかし、今回明らかになったように、「ドヤ」の中には建築構造に問題があったり、老朽化しているところも少なくありません。特に川崎の「ドヤ」は他地域に比べても、高度経済成長期に建てられたまま、建て替えをしていないところが多いようです。

 居宅保護の原則が守られていない

ポイントは、こうした民間宿泊所や「ドヤ」はあくまで一時的な居所に過ぎないという点です。生活保護法第30条では、居宅保護の原則が定められていて、一人暮らしができる人については一般のアパートやマンションで暮らすことが前提になっています。

地方都市の中には、ホームレス状態の人が生活保護を申請したら、すぐにアパートの転宅一時金(入居に必要な敷金等の初期費用)を支給して、アパートに入ってもらっている例もあります。

住まいのない人が生活保護を申請するケースが多い大都市では、一時的な受け皿として、民間宿泊所や「ドヤ」を利用するのは仕方がない面もありますが、そうであっても、早期にアパートでの生活に移れるよう支援すべきなのです。

ところが、福祉事務所の中には「一時的な居所」に過ぎないはずの民間宿泊所や「ドヤ」に多数の生活保護利用者を長期間、「滞留」させている例が散見されます。

私がこれまで受けた相談の中にも、「貧困ビジネスの施設に8年入れられていた」という人がいました。川崎の「ドヤ」にも10年以上、暮らしている高齢者がいるようですが、これらは福祉事務所の怠慢(あるいは意図的な不作為)と言わざるをえません。

一人暮らしができる人はアパートに、介護の必要などがあって一人暮らしが困難な高齢者は特別養護老人ホームなどの介護施設に移ってもらうのが、福祉のやるべき仕事だからです。

なぜ地域生活への移行が進まないのでしょうか?

1つには、福祉事務所職員の中に「あの人たちはアパート生活ができない」という偏見があって、なかなかアパートに移そうとしない、という問題があります。

これまで私は何人もの生活保護利用者から「ドヤ/民間宿泊所からアパートに移りたい」という相談を受けてきました。ご本人が福祉事務所のケースワーカーと話し合いをする場に同席にしたこともたくさんありますが、ケースワーカーが「もう少し様子(本人の生活状況等)を見させてくれ」と「待った」をかける場面が多くありました。

そうした場合、ご本人の権利としてアパートの転宅一時金申請を書面でおこなうこともよくありますが、それに対してあからさまに嫌な顔をされることもよくありました。

一部の職員の対応には、「プライバシーが確保され、適切な居住環境の住まいに暮らすことは基本的人権である」という考え方が欠如しているように感じられました。この問題は拙著『ハウジングプア』の中でも詳しく論じています。

他方、長く「ドヤ」住まいをしてきた高齢者の中には、アパートに移ると孤立してしまうのではないか、と不安を感じている人も確かにいます。

しかし、だからと言って劣悪な居住環境に人を長期間とどめていいことの理由にはなりません。
アパート入居後の見守りや地域での居場所づくりといったサポートを強化することによって、不安を解消する努力をするべきだと考えます。

2つ目には民間賃貸住宅市場における入居差別の問題があります。

NPO法人もやいでは、2001年より生活困窮者の入居支援(賃貸住宅に入居する際の連帯保証や緊急連絡先の引き受け)をおこなってきましたが、単身高齢者の孤独死が社会問題化する中、単身高齢者のアパート入居のハードルは年々上がってきているように感じます。

本来、こうした低所得者を受け入れるべき公営住宅は都市部での応募倍率が高く、なかなか入れない状況にあります。

単身の高齢者がアパートになかなか入居できない、入居できても劣悪な物件にしか入れないという問題は、2011年11月に新宿区で発生した木造アパートでの火災でも明らかになりました。

※関連記事 新宿区大久保アパート火災が投げかけたもの

3つ目には、特別養護老人ホームなど、高齢者のための適切な介護施設の不足があります。これは2009年3月に発生した群馬県の無届老人ホーム「たまゆら」の火災でも指摘された問題ですが、未だに解決していません。

このように「適切な住まい」(アパートや介護施設)への移行が進まない中、各地の民間宿泊所や「ドヤ」に単身高齢者が滞留している状況があります。

こうした問題に対する提言はこれまでもおこなってきましたし、今後もおこなっていく予定ですが、悲劇を繰り返さないために、まず多くの方に「なぜ単身高齢者が『ドヤ』に滞留させられていたのか」という問題を知っていただきたいと願っています。

 

※関連記事 【2015年5月24日&26日】 朝日新聞:川崎・簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載

 

つくろいハウスでバザー&見学会をおこないました!

日々のできごと

5月10日の良く晴れた日曜日、「つくろい東京ファンド」がお借りしている建物の駐車場スペースにてバザーを開催いたしました。バザーを通じて、私どもの活動を地域の方々に知っていただきたいという思いから、支援者の皆様に物品の寄付を募り、実現しました。

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10時になると、早くも「ちらしを見ました」とご近所さんがお越しになりました。
気に入ったお品物を手に取り、お買い上げです。「つくろい東京ファンド」の紹介文と、過去に掲載された新聞記事のコピーも受け取って下さいました。

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バザーの目玉は、何と言ってもブランド冬物衣類と手作りの商品です。

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ケーキ職人による焼菓子もテーブルに並びます。
「バナナ」「はっさくピールショコラ」「ハニーレモンジンジャー」のケーキを超格安の100円で販売したところ、子ども達を中心に大好評でした。洗練された絶品ケーキでした。

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Sさんの手作りコサージュも売れ行きは好調で、遊びに来て下さった皆さんの胸にコサージュの花が咲きました。駆けつけて下さった中野区区議会議員のむとう有子さんの胸にも!

バザーを機に、今回2度目になるつくろいシェルターの見学会も行いました。
代表理事の稲葉が教えている立教大学大学院の学生さんや、他の生活困窮者支援団体の方、地域で社会活動に関わる方など、多くの方が関心を寄せて下さり、集まって下さいました。生活困窮者が生活保護を受けアパート入居を果たすまでの期間、安心して過ごせる個室シェルター(つくろいハウス)の必要性が皆さんに伝わったと思います。

バザー10
お昼はボランティアのHさんが作ってきて下さったお弁当をみんなで囲みました。風の強い日でしたが、青空の下、みんなで食べるお弁当の美味しかったこと!

このバザーを通じて、私たち「つくろい東京ファンド」は多くの方々に支えられ、いろいろな活動を行えているのだと実感しました。ビルを貸して下さったオーナー様、寄附をお寄せ下さる支援者の皆さん、手弁当で手伝って下さるボランティアの皆さん、お買い上げ下さった地域住民の方々など、改めて心より感謝いたします。

次回は秋の開催を予定しています。またご縁が広がりますように。(つくろい東京ファンド・小林)

※つくろい東京ファンドへの寄付については、こちらのページをご覧ください。

6月21日(日) ほっとプラス記念講演「生活困窮者支援の過去と未来」(浦和)

講演・イベント告知

6月21日(日)に、NPO法人ほっとプラス主催の講演会でお話します。

ぜひご参加ください。

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http://hotplus2011.blog.fc2.com/blog-entry-241.html

2015年6月21日(日)19時~ 平成27年度 ほっとプラス記念講演 稲葉剛氏 「生活困窮者支援の過去と未来」のお知らせ

毎年恒例のほっとプラス総会後、記念講演会を開催します。

前々年度は、中村あずささん(世界の医療団)をお招きして、「ホームレスと障害」について議論しました。

前年度は、川村遼平さん(NPO法人POSSE)をお招きして、「若者の貧困と労働問題」について議論しました。

今年度のテーマは、「生活困窮者支援―これまでの10年、これからの10年-」と称して、稲葉剛さんをお招きします。

「生活困窮者支援―これまでの10年、これからの10年-」

2015年4月から生活困窮者自立支援法が施行になりました。
長年、生活困窮者支援に関わって来られた稲葉さんを交えて、過去と未来について考えていきたいと思います。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科准教授
稲葉 剛 氏

日時:2015年6月21日(日)19:00~20:30

場所:コムナーレ(浦和コミュニティーセンター)10階第13集会室(浦和駅東口すぐ)

地図はこちら。

参加費:無料

誰でも参加できますので、気軽にお越しください。
講演会をきっかけに会員登録いただけたら幸いです。

これからもよろしくお願い致します。

 

6月19日(金) みみの会:生活保護を考える

講演・イベント告知

出版・メディア関係者の勉強&情報交換の場である「みみの会」で講演をします。

ぜひご参加ください。

http://d.hatena.ne.jp/miminokai/20150429/1430304164

【みみの会】ご案内 102回 みみの会ご案内 生活保護を考える

講師:稲葉剛(NPО法人自立生活サポートセンター・もやい理事)

今回は、野宿者支援や貧困問題に取り組む稲葉剛さんをお招きして「生活保護」についてお話していただきます。
最後のセーフティネットと言われる「生活保護」。段階的に基準が引き下げられるなか、ますます受給しにくくなっています。貧困問題に取り組んでいる稲葉氏に、生活保護制度の現状や、水際作戦とは何か、芸能人の親族が生活保護を受けていたことへのバッシングとはなんだったのか、メディアの「生活保護」の報道の仕方などについてお話していただきます。

稲葉剛(いなば・つよし)プロフィール
1969年広島県生まれ。東京大学教養学部卒業。94年より新宿を中心に野宿者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立し、幅広い生活困窮者への相談・支援活動に取り組む。
現在、NPО法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事、一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人、「生活保護問題対策全国会議」幹事。著書に『生活保護から考える』(岩波新書)『ハウジングプア―「住まいの貧困」と向き合う』(山吹書店)『貧困待ったなし―とっちらかりの10年間』(共著・岩波書店)『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン)

日 時:2015年6月19日(金)
時 間:午後7時~9時
会 場:東京しごとセンター 講堂(地下2階) 

電話03-5211-2307
最寄駅 飯田橋から徒歩7分(http://www.shigotozaidan.or.jp/

参加費:1000円

*終了後、懇親会を予定しています。

平和といのちと人権を!5・3憲法集会でアピールしました。

日々のできごと

5月3日は憲法記念日。
横浜の臨港パークでは「平和といのちと人権を! 戦争・原発・貧困・差別を許さない」をテーマにした集会が開催され、約3万人が集まりました。

東京新聞など各紙で大きく取り上げられました。

東京新聞:横浜で集会 青空に「9条守れ」と3万人 ※一定期間が過ぎるとリンク切れになります。

集会の前半では、木内みどりさん司会のもと、香山リカさん、雨宮処凛さん、大江健三郎さん、澤地久恵さん、樋口陽一さん、落合恵子さんといった有識者がアピール。

私はステージわきから皆さんのアピールを聴いていました。皆さん、とても素晴らしい演説だったのですが、落合恵子さんが「瀕死の民主主義を生き返らせることができるのは、私たちの力です。」 と強調されていたのが、特に印象に残りました。

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その後、政党代表として、民主党の長妻昭さん、日本共産党の志位和夫さん、社会民主党の吉田忠智さん、生活の党と山本太郎となかまたちの主濱了さんが演説。

沖縄からの特別アピールとして、高里鈴代さんが登壇し、みんなでシュプレヒコールをあげた後は、各市民団体関係者からのリレートークに入りました。

リレートークでは、11人が話をしたのですが、私は武藤類子さん(福島原発告訴団)の次に話をしました。

以下がそのアピール内容です。写真はステージ上から撮らせてもらいました。

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【5・3憲法集会でのアピール】

皆さんは安倍政権になってから生活が楽になったでしょうか。

年収がアップした方はいらっしゃるでしょうか。

今年4月の日本経済新聞による世論調査では、景気回復を実感している人はわずか16%。78%もの人々が景気回復を実感していないと答えています。
食料品を中心に物価が上がる中、安倍政権になって、収入が10%も下がった人たちがいます。生活保護を利用している4人家族です。
安倍政権は2013年から生活保護基準の段階的な引き下げを進めています。引き下げ幅は平均で6.5%ですが、最も引き下げ幅が大きいのは両親と子ども2人の世帯です。一方の手で子どもの貧困対策を進めるという名目で国民運動を呼びかけておきながら、もう一方の手で子どものいる貧困家庭の生活費を削るというのは、全く矛盾した政策と言わざるをえません。

今年度からはさらに生活保護の住宅扶助基準や冬季加算も削減されます。これにより、生活保護世帯の子どもたちが転校をせざるをえなくなったり、寒冷地に暮らす高齢者や障がい者が暖房代をまかなえずに体調を悪化させるといった事態も起こりかねません。

そもそも安全保障とは一体、何でしょうか。社会保障とは一体、何のためにあるのでしょうか。
それらは、私たち一人ひとりが安全に、そして安心して暮らしていけることを基本に据えるべきだ、と私は考えます。

安倍政権は自衛隊を海外に派兵させる安保法制には前のめりですが、国内における人々のいのちと安全を保障するという憲法25条が求める義務を放棄しようとしています。

平和を壊し、社会保障を壊す安倍政権に、NO!の声をつきつけましょう。

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私の前に発言された武藤類子さんは、「原発と貧困、差別、平和の問題はつながっている」ということを強調されていたのですが、もともと平和運動から市民活動に関わるようになった私も、そうした思いで貧困問題に取り組んできました。

今後とも、貧困問題だけでなく、個人の立場でマルチイシューの運動にも関わっていこうと思います。

 

6月14日(日) 「住まいは人権デー」シンポジウム「若者と生活弱者の住宅実態」

講演・イベント告知

6・14 「住まいは人権デー」シンポジウム
「若者と生活弱者の住宅実態」

日時  2015年6月14日(日)13時30分~16時30分

会場  日本大学経済学部
    7号館4階7043教室
(千代田区三崎町2-8 JR水道橋駅徒歩2分)
アクセスマップはこちら。

【内 容】
第1部 大都市の単身若者世帯の住宅問題
首都圏の賃貸住宅に住む不安定就業、生活保護を経験した20~50代の単身者への聞き取りから、厳しい住まいの実態が浮かび上がってきました。
①聞き取り調査の概要 ②住宅水準と住居費負担率 ③住居不安定化の変遷と雇用の関係ほか

第2部 関係者のリレートークとフロアディスカッション
一般社団法人自由と生存の家/あじさいの会/生活と健康を守る会/母子家庭支援者など

1996年の6月にトルコのイスタンブールで第2回国連人間居住会議が開催されました。一般に「ハビタットⅡ」と呼ばれている会議で、世界171ヵ国から政府代表団、国連の機関、市民代表(NGO等)などが参加して、6月3日から14日までいろいろな議論が交わされ、6月14日に宣言が採択されました。
その結果、「居住の権利」という新しい概念を、独立した「基本的人権」として位置づけることが世界各国によって承認されました。そして、その政策的実現を、それぞれの政府が自国の住宅政策の最重要課題として努力することを確認し合いました。
この「住まいは基本的人権」という考え方を日本で確立し、実現するために、毎年6月、「住まいは人権デー」を記念するイベントを開催しています。
今年は、「若者と生活弱者の住宅実態」をテーマにしたシンポジウムを開催いたします。ぜひご参加ください。

【資料代】  500円(払える人のみ)
【開催団体】 住まいの貧困に取り組むネットワーク、国民の住まいを守る全国連絡会、日本住宅会議   
【 協 力 】 大都市の住まい実態調査プロジェクトチーム
〔連絡先〕 NPO住まいの改善センター 03-3837-7611

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