「エライ人たちが決めた大規模事業は止まらない」という悪習は根絶しよう

提言・オピニオン

本日12日(日本時間は13日未明)、ブラジルでFIFAワールドカップが開催されます。

この間、ブラジルでは貧富の格差が広がる中、大規模スポーツイベントに巨費を投じる政府の姿勢が批判にさらされ、開催日当日も大規模なデモやストライキが起きるのではないかと言われています。

地球の裏側ほどではありませんが、日本でも2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた競技場の整備に関して「経費がかかりすぎる」という観点から批判が高まり、計画を見直す動きが出てきています。

舛添都知事は10日、「都民の理解を得られるよう、招致時点で作成した会場計画全体を見直す」と表明しました。建設資材、人件費の高騰を再検討の理由にあげています。

 

東京新聞:五輪整備費 削減へ コスト高騰で都知事表明

 

このニュースを見た瞬間、「ついに新国立競技場の見直しに踏み込んだか?」と勘違いをしそうになったのですが、批判を浴びている新国立競技場について知事は言及していません。

この問題について、私は以前、経費削減や歴史的景観といった観点だけでなく、建て替えによって立ち退きをさせられる住民の視点から計画を見直すべきだとブログを書きました。

 

国立競技場建て替え問題:まず聴くべきは地域住民の声では?

 

その際、建て替えではなく、改修を主張する建築家の伊藤豊雄さんの案についても言及しましたが、実はその後、伊藤氏の改修案でも都営霞ヶ丘アパートは「サブトラック」の用地として指定されていることがわかりました。

伊藤氏自身が都営霞ヶ丘アパートの立ち退き問題をあまり認識していないか、軽視しているせいではないかと思われます。この案についても再考を求め、改修案をブラッシュアップしてほしいと思います。

「建て替えか、改修か」という議論は7月に競技場の解体が迫る中、「時間切れ」で押し切られそうになっていましたが、競技場を管理する日本スポーツ振興センター(JSC)は、この解体工事の入札が不調に終わったと発表しました。資材費や人件費の高騰が原因ではないかと言われています。

 

朝日新聞:国立競技場、解体工事の入札不調 東京五輪の主会場

 

これにより、7月中に解体工事に着手できない可能性が出てきました。これは計画について白紙から考え直す良いチャンスだと思っています。

そんな中、国立競技場周辺の住民に「新国立競技場基本設計概要の説明会」を13日夜に実施するというチラシが配布されました。

チラシの画像(表・裏)はこちらです。

140613説明会チラシ表

140613説明会チラシ裏

説明会の概要はこちら。

「新国立競技場基本設計概要の説明会」

日時:6月13日(金)
19:00~21:00(受付18:30)

場所:国立霞ヶ丘競技場体育館
(東京都新宿区霞ヶ丘町10-2)

主催:JSC
(日本スポーツ振興センター)
問合:03-5410-9143
担当:高崎・関・鈴木(武)

この説明会、周辺住民でなくても参加できることが確認されています。
会場となっている体育館は500人が入れるところなので、関心がある人は参加してみてはいかがでしょうか。

この国立競技場建て替え問題、「エライ人たちが勝手に決めた大規模事業は絶対に止まらない」という悪しき慣習をなくしていくチャンスだと私は考えています。

東京修繕計画、はじまります~市民の力でセーフティネットをつくろいたい!

日々のできごと

昨日(6月10日)の晩、ついに運命のクラウドファンディングが始まりました。

住まいのない人が安心して暮らせる個室シェルターを作りたい! – クラウドファンディング MotionGallery(モーションギャラリー)

 

おかげさまで、開始して24時間も経たない間に十数万円の資金が集まりました。感謝感謝です。

ツイッターやフェイスブックでは、雨宮処凛さんイケダハヤトさん安田菜津紀さんら、たくさんの方々がこのプロジェクトを応援してくれ、情報拡散に協力してくださっています。

なんとか目標額の80万円を集めて、個室シェルター事業を軌道に乗せたいと思っています。よろしくお願いします!

 

またこのたび、個室シェルターの運営主体として、一般社団法人つくろい東京ファンドを設立しました。

「市民の力でセーフティネットを修繕する」を合言葉に、今後、さまざまな事業を展開していく予定です。

つくろい東京ファンドのマスコットキャラクターは、「つくろい猫のぬいちゃん」。

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東京のセーフティネットのほころびをけなげに繕っている猫を、絵本作家の松本春野さんが描いてくださいました。

すでにSNSなどで「かわいすぎる!」と評判になっています。

松本さんは、私の似顔絵も含め、このサイトのさまざまなイラストも描いてくださっています。

モーションギャラリーのクラウドファンディングでは、「チケットを選んで応援する」という方法があるのですが、5000円以上の「チケット」を購入していただいた方には、「ぬいちゃん」の缶バッジとクリアファイルがプレゼントされます。ぜひご協力ください。

 

つくろい東京ファンドのページでは、個室シェルターを作りたいと思った動機やよくあるQ&Aも掲載しました。

そこにも書きましたが、本来、こうした事業は行政が責任を持って行うべきものです。しかし残念ながら、現在の行政による「ホームレス対策」は集団生活の施設への入所が中心になっており、「外で寝るよりはマシでしょ?」という発想から抜け出すことができていません。

そのことがホームレス問題の解決を妨げていると私は考えています。

そこで、「ハウジングファースト」(まずは適切な住居を提供することから支援を始めるべきとする考え方)のモデルをまず民間で行ない、その有効性を行政にも示していきたいと思っています。

ぜひ、つくろい東京ファンドへのご協力をお願いいたします。

 

【予告】明晩、新プロジェクト発表。そして来週、メルマガ発刊です!

日々のできごと

稲葉剛公式サイトをご覧いただき、ありがとうございます。

今年度から、私は〈もやい〉での勤務日数を半分に減らし、空いた時間を使って、生活困窮者支援の新プロジェクトの準備を進めてきました。

その新プロジェクトをいよいよ明日(10日)の晩、このサイトで発表することになりました。ぜひご注目ください。

また、来週にはメールマガジン「いなつよマガジン」の創刊号を発行する予定です。
今後、月1回くらいのペースで発行していく予定です。
メルマガ限定公開のエッセイも収録するので、ぜひ楽しみにしていてください。もちろん無料です。

本サイトのトップページでメールアドレスの登録ができますので、よろしくお願いします!

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梅雨に入り、じめじめした日が続いていますが、皆さん、ご自愛のほどを。

あなたにもできる!「路上スキマ部」活動の勧め

提言・オピニオン

昨年2月から住まいの貧困に取り組むネットワークの呼びかけで、有志による月2回の「アウトリーチ活動」を行なっています。

東京23区内には20を超える路上生活者支援団体があり、新宿・渋谷・池袋などの主要ターミナル駅周辺や山谷地域とその周辺(上野、浅草を含む)では、定期的な夜回りや炊き出しなどが各団体によって行なわれています。

こうした活動によって、路上生活をしている人が比較的多い地域はほとんどカバーされているのですが、場所によっては住宅街やオフィスビル街、小規模の公園などに数人単位で路上生活者がいる地域もあり、23区内でも支援団体がカバーしていない地域はまだたくさんあります。

そうした「支援の空白地域」を埋めようと始めたのが、この「アウトリーチ」で、参加者の間では「路上スキマ部」と呼ばれています。

前回5月26日は両国から浜町まで河川敷を歩きました。

前回5月26日は両国から浜町まで河川敷を歩きました。

「路上スキマ部」の活動には、もやいのメンバーだけでなく、各地で支援をしている団体のメンバーも参加して、交流の場にもなっています。

どなたでも参加できますので、ぜひご協力ください。活動日は原則毎月第2・第4月曜日夜ですが、たまに昼に回ることもあるので、以下のページでスケジュールをご確認ください。次回は明日9日です。

住まいの貧困に取り組むネットワークブログ カテゴリー「アウトリーチ活動」

夜回り中に公園で会った猫

夜回り中に公園で会った猫

 

ですが、こうした「路上スキマ部」活動は、実は個人でもおこなうことができます。

昨日(6月7日)も、定例の「もやいセミナー」に参加された方々とサロン・ド・カフェこもれびでお話をしていたのですが、そこで「自分の家の近所に野宿をしている人がいて、気になっているのですが、自分に何ができるでしょうか」という質問を受けました。

これは私がよくされる質問の一つですが、そのたびに私は「路上脱出ガイド」の紹介をしています。

ビッグイシュー基金「路上脱出ガイド」紹介ページ

「路上脱出ガイド」は、ホームレス状態になった人に「その人が活用できる社会資源」(行政サービスや炊き出し情報など)を正しく伝えるために、ビッグイシュー基金が各地の支援団体の協力を得ながら作成している冊子です。

現在では東京、大阪だけでなく、札幌、名古屋、京都、福岡の各都市版も発行され、無償で配布されています。

東京23区版はリーマンショック後の2009年に第1版が作成され、私もその編集に協力をさせていただきました。

その後、東京23区版を重ね、第4版まで発行されています。累計の配布部数は2万部を超えています。

「路上脱出ガイド」は各支援団体を通して、炊き出しなどの場で配布してもらうと同時に、一般の市民の方にも配布をお願いしています。図書館やお寺、教会などで置いてくれているところもあります。

ビッグイシュー基金に依頼すれば、送料のみ負担する形で送ってくれるので、ぜひ「自分の家や職場の近くに気になる人がいる」という方は取り寄せてみてください。

でも、いきなり野宿の人に声をかけるのは勇気がいることです。私はいつも「声をかける勇気がなければ、その人が寝ている時に枕元に置くだけでもいいですよ」と言っています。

大切なのは、その人が活用できる支援に関する正確な情報を伝えることです。私たちにできることはそれくらいしかありません。

その情報を受け取った人が、支援に関する情報を「活用するのか、しないのか」(生活保護を申請したり、もやいなどの民間団体に相談をするのか)、あるいは「いつ活用するのか」というタイミングは、その人に任されています。

路上生活をしている人の中には、アルミ缶集めなどの仕事をして生計を立てている人も多く、高齢であっても「まだ生活保護は申請するつもりはない」という人もいます。見ているこっちが心配になる人も多く、私も時には説得に乗り出すこともあるのですが、基本的に「自分の生活を今後、どうするか」ということはその人の選択に任されています。

そのため、私は「路上脱出ガイド」を渡す時、「すぐには使わないかもしれないけど、病気になることもあるかもしれないから、お守り代わりに持っていてくださいね」と言うことにしています。

このように支援と言ってもできることは限られていますが、「あなたのことを気にしている人がいますよ」というメッセージを伝えることは(自己満足かもしれませんが)意味のあることだと思っています。

ぜひ「路上脱出ガイド」を取り寄せて、支援の空白地帯を埋める「路上スキマ部」活動にぜひあなたも参加してみてください!

 

 

 

何が貧困問題の解決を妨げているのか?~札幌講演録⑤

提言・オピニオン

札幌講演要旨の5回目(最終回)です。第1~4回はこちらです。

「孤独死」から「孤立死」へ、そして貧困拡大を見過ごした日本社会~札幌講演録①

住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

機能不全に陥っているセーフティネット~札幌講演録③

「改正」生活保護法の問題点と施行後の課題~札幌講演録④

 

生活保護基準の引き下げ

最後に、生活保護基準の問題についてお話しさせていただきます。

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安倍政権は、すでに、昨年(2013年)の8月に第1弾の引き下げを行なっています。そして、今年の4月、来年の4月に、第2弾、第3弾の引き下げが予定されています。

生活保護基準が下がっても、生活保護利用者が困るだけで、自分にはあまり関係ないと思われる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、これは、生活保護利用者だけではなく、低所得者、そして日本に暮らしている全ての人たちに影響がある制度改悪だと思っています。

生活保護の基準が下がると、まず第1に、生活保護を受けている人たちの生活状況が悪化します。特に、今回の基準切り下げというのは、ご夫婦と子供が2人以上いる世帯で、約10パーセントの引き下げが行われますので、これによって、結果的に、子どもの教育とか保育に影響が出てきます。私の知っている4人世帯のご家族でも、引き下げが行われた後、お父さん、お母さんが食べる物を減らして、本代など子どもの教育費に回しているというような状況があります。親が食べる物を減らすか、子どもの教育にかけるかという二者択一のような状況に追い込んでいくのは、本当にとんでもないことだと思っています。

 

基準引き下げの影響の広がり

同時に、基準が下がると、低年金の方とか、今まで制度を利用していた方の一部が生活保護から外れてしまうという問題が生じてしまいます。その結果、高齢者の方で、様々な公的な支援を受けられずに孤立してしまう方も出てきかねません。

そして最後に、生活保護基準は、この国における様々な低所得者対策の重要な目安になっています。そのために、生活保護基準が年々下げられることによって、例えば、地方税の非課税水準が連動して下がり、介護保険、国民健康保険の利用料とか保険料の減免基準も下がってしまう。

今、子どもの貧困も広がっていて、小学生、中学生の6人に一人が、就学援助という修学旅行費とか学用品代の補助を受けています。就学援助の基準は自治体によって違うのですが、だいたい、生活保護基準の1.0倍~1.3倍に設定されています。そうすると、生活保護基準が下がることによって、連動して、就学援助の所得制限が厳しくなる。
つまり、全国で157万人のお子さんたちがこの就学援助を受けていますけれども、生活保護基準がこのまま下がってしまいますと、その中から、数万人のお子さんたちが、この支援を受けられなくなります。

このように生活保護基準の引き下げは、生活保護世帯だけではなくて、低所得者全体に影響が出てくる。負担が増大するのです。

そのため、生活保護基準引き下げは、低所得者層だけをターゲットにした「増税」と同じ意味を持つことになります。生活保護基準は、「社会保障の岩盤」とも呼ばれますが、私たちの社会において「健康で文化的な最低限の生活」を営むうえで、「最低限、これだけ必要ですよ」というラインを示しています。そのラインを引き下げるということですから、それによって、この社会に住む全ての人たちの暮らしが、地盤沈下してしまうのです。

 

不服審査請求のすばらしい意義

生活保護基準が昨年(2013年)8月に引き下げられたことに対して、私も呼びかけ人の一人になりましたが、全国で引き下げに対する不服審査請求を行なうという運動が展開されました。その結果、全国で、1万人以上の生活保護利用者が立ち上がっています。この北海道でも1300人以上の方々が、この不服審査請求を行なったそうですが、これは本当にすばらしいことだなと思っています。

こうした動きは、生活保護利用者が自分たちの生活を守っていく、自分たちの権利を守っていくという意味を持っていますが、それと同時に、「社会全体の貧困をこれ以上拡大させない」「このラインから下に行かせない」という大きな力になっています。ぜひ、それぞれの地域で、こうした動きを応援していただければと思っています。

 

何が貧困問題の解決を妨げているのか?

私はいつもお話をさせていただいているのですけれども、貧困の問題、「何が貧困の問題を妨げているのか」ということを考えたときに、実は、一番問われているのは、私たち自身が、生活に困っている方、貧困状態に置かれている方々を、どう見ているのか、どう「まなざし」を向けているのかという点なのではないかと思っています。

2008年から2009年にかけて、「年越し派遣村」がありまして、私たちのNPOも全国から寄付をいただいて、大きな注目を浴びました。それは非常にありがたかったのですが、ただ、そのときのマスメディアの報道で気になっていたのは、「今までずっと真面目に働いていた人が派遣切りにあってかわいそうだ」と言うような論調が中心だったということでした。

「かわいそうだから救済しないといけない」という話だけになってしまうと、裏を返せば「かわいそうに見えない人は助けなくてもよい」ということになってしまいます。その「反転」が、起こってしまったのが、その2、3年後に起こった「生活保護バッシング」だったではないかと思っています。マスメディアが「かわいそうに見えない人」を焦点化することによって、「自己責任論」への逆戻りが行なわれたのです。

「かわいそうだから救済しないといけない」という「同情」から入ることは、問題への入り口としてはあって良いと私は思っているのですが、そこだけにとどまってしまうと、結局、「権利としての生活保護」、「権利としての社会保障」という考え方になかなか行き着かないんじゃないかなと思っています。かわいそうであろうと、かわいそうに見えなくても、どんな人でも、最低限度の生活を保障するという、というのが生活保護制度の趣旨であり、憲法25条の趣旨だと、改めて考えてみたい。そういう意味で、実は、貧困問題というのは、「あの人たちの問題」ではなくて、「貧困を見る私たち自身の問題」、「私たち自身のまなざしの問題」ではないか、ということを皆さんに考えていただければと思っています。(了)

「改正」生活保護法の問題点と施行後の課題~札幌講演録④

提言・オピニオン

札幌講演要旨の4回目。1~3回はこちらです。

「孤独死」から「孤立死」へ、そして貧困拡大を見過ごした日本社会~札幌講演録①

住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

機能不全に陥っているセーフティネット~札幌講演録③

 

健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護制度

 

本来、生活保護は、どんな方であっても、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するというもので、その利用に当たっては、生活を困窮した理由を問わない、というのが一つの特徴になっています。親族の扶養についても、それを「要件」とするのではなくて、実際に家族が仕送りをしてくれれば、その分だけ生活保護を減額しましょう、家族からの仕送りが生活保護の基準を上回れば、そっちを優先して下さい、というような規定になっています。これは、一般的には知られていない規定だと思うのですが、そこを悪用して、ああいう「バッシング」がおこなった。その結果、多くの方が具合を悪くしてしまった、そして同時に多くの方が、自分が困っても、この制度を使えないのはないかと思ってしまったです。

 

申請手続きの簡素化とスティグマの解消を!

 

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スティグマについては、国連の社会権規約委員会からも指摘を受けています。

昨年(2013年)5月に、国連の社会権規約委員会が、日本政府に対して様々な勧告をおこなっています。

その中で、生活保護の申請手続きを簡素化しなさい、または、申請した人がもっと尊厳を持って扱われるように政府は必要な措置をとりなさい、と求めています。

そして、「スティグマ」についても、生活保護につきまとうスティグマを解消するように、政府は国民に対して教育を行いなさい、とかなり強い調子で勧告をしています。

ところが、政府はこの国連の勧告が出たのと全く同じ日に生活保護法の「改正」案を閣議決定しました。それに対して、このかん抵抗、反対運動をおこなってきたのですが、昨年の12月、ちょうど、秘密保護法が通ったのと同じ日に、国会を通過してしまいました。

 

生活保護法「改正」の問題点

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「改正」法には、様々な問題があります。

今まで特に規定がなかった生活保護の申請手続きについても、第24条であえて申請書や添付書類を提出するということを明記しています。厚生労働省はこれにより窓口対応が変わることはないと言っていますが、「改正」法が施行される今年7月以降、申請時の手続きが厳格化され、「水際作戦」が激化する危険性があります。

また、親族の扶養義務は以前よりも強調されています。

「改正」法をめぐる国会の審議では、「マイナンバー制」(社会保障番号制度)との兼ね合いも議論されました。

今でも福祉事務所は、生活保護を申請した人の親族に仕送りが可能かどうかを問い合わせる扶養照会を行なっていますが、「改正」法では、親族が援助できないと回答した場合、援助できない理由について報告を求める権限が福祉事務所に付与されています。

国会で厚労省は親族の収入や資産を調査する際、「マイナンバー制」を活用することを否定しませんでした。これは生活保護を申請する人の立場に立つと、自分が申請することによって、家族の収入や資産が丸裸にされてしまうことを意味します。そのため、自分が困っても「家族に迷惑をかけるぐらいなら、申請するのを止めておこう」という意識が働き、申請抑制につながりません。

これは捕捉率をさらに下げて、餓死、孤立死を拡大しかねない、本当に危険な条文だと思っています。

 

「改正」生活保護法施行後の課題 

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厚労省は、申請手続きについて「今までと全く運用は変わりません」、扶養義務についても、「家族に説明を求めるなんて言うのは、よっぽどお金持ちの場合、本当に限定的な場合に限ります」と説明しています。

しかし、現場はすでに暴走を始めています。大阪市では、市の職員で家族が生活保護を受けている人に対して、「あなたの年収はこれくらいだから、その場合の仕送り額はこの程度が目安になります」という一覧表を示すということを始めています。今は、市の職員だけにやっていますけれども、7月に「改正」法が施行されると、一般の生活保護利用者の親族にも実施する、と言っています。

大阪市は、これはあくまで「目安」であって「基準」ではないのだから強制ではないと言っています。けれども、家族にとってみれば、「あなたの家族が生活保護を受けているから、あなたの年収に応じてこの程度の額を仕送りしなさい」という紙が来ると、本当に脅威になってしまうわけです。それによって、「おまえ、生活保護を受けるのを止めろ」と、生活保護を利用している人に取り下げさせるという動きも家族の中で起こってきかねません。

そのため、こうした地方自治体の暴走をきちんと止めさせる、ということが非常に重要だと思っています。

そして、「水際作戦」をなくすために、例えば、窓口の手に取れる場所に生活保護の申請書を置かせるとか、各自治体に、「水際作戦」が起こったときの苦情窓口を設置させるとか、そういったような様々な働きかけが大切になってくると思っています。

そして何より重要なのは、私たち自身が、生活保護に対する正しい知識を持って、「生活保護を利用するのは恥ずかしいことではない」という意識を周りに広げていくということです。自分たちの周りに、生活に困っている方がいたときに、「私たちの社会には生活保護という仕組みがあって、これを使うことは何ら、『恥』ではない」ということを伝えていく。そうした積み重ねによって、2割~3割しかない捕捉率を上げていく。それが、餓死や孤立死を無くしていく力になっていくのだと思っています。

東京都が「ホームレス対策」に関する意見を募集

日々のできごと

東京都で「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第3次)」 素案への意見募集が始まっています。締め切りは6月10日です。

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詳しくはリンク先をご覧ください

〈もやい〉でも現在、意見をとりまとめているところですが、意見は個人でも出せるので、ぜひ皆さんもそれぞれ意見を出していただければと思います。

「オリンピックを口実とした野宿者排除をするな」、「都内各地で多発している野宿者襲撃事件を予防するため、教育現場での取り組みを強化してほしい」、「生活保護の窓口における水際作戦をやめるよう、各区市を指導してほしい」、「貧困ビジネスを規制してほしい」等の意見を出していただければと思います。

よろしくお願いします!

総理、いいかげんにしてください!

日々のできごと

第一水曜日の今日は、恒例の「困っちゃう人々」官邸前アクション。
一昨年の夏から行なっているアクションですが、今月からリニューアルし、時間も18時半からになりました。
新しいキャッチフレーズは「総理、いいかげんにしてください!」に。

前回までは「総理、わたしたちの声を聞いてください!」ですが、あまりの悪政の数々に「いいかげんにしろ!」という思いを込めました。

まず、駆けつけてくれた吉良よし子議員と辰巳孝太郎議員がアピール。
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その後、様々な立場の人がリレートークを行ないました。

・生活保護の生活扶助の段階的引き下げに加えて、住宅扶助基準までも引き下げようとする動きがあること。

・医療・介護総合法案が通ってしまえば、「要支援」の人たちがを切り捨てられてしまうこと。

・消費税引き上げでますます家計が悪化し、最低賃金もなかなか上がらないこと。

などなど、今の政治のあり方に対する抗議の声があげられました。

おなじみ、ジョニーHさんも国会の会議中に居眠りをする議員たちを批判する新曲「グッバイ、センセイ」を披露して、大いに盛り上がりました。

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*記録動画はこちら。
http://www.ustream.tv/recorded/48406845

次回は7月2日(水)18:30~20:00です(雨天中止)。

ぜひご参加ください。

機能不全に陥っているセーフティネット~札幌講演録③

提言・オピニオン

※札幌講演要旨の3回目です。前回はこちら。

住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

 

セーフティネットの機能不全

私は〈もやい〉で、様々な困窮状態になる方とお話をして、面接をして、ふと思うのですが、「自分の前に座っているこの人が、どういう行政の支援策を活用できるか、どういう制度なら利用できるか」ということを考えてみると、事実上、生活保護しかないという場合が、9割以上あります。この社会には、様々な支援策、様々なセーフティネットがあるはずなのですけれども、事実上、生活に困っている方が生活保護しか使えない、という状況が広がりつつある、と感じています。

「生活保護」というのは、よく、「最後のセーフティネット」、様々な他の制度を利用して、それでも生活が立ちゆかなくなったときに使える「最後のセーフティネット」と言われています。しかしながら、実際は、相談の現場で感じているのは、事実上、「生活保護が、最初で最後のセーフティネットになっている」ということです。

 

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具体的に説明してみましょう。生活に困窮している人の多くは失業状態にあります。ですから、真っ先に活用を考えるのが、雇用保険の失業手当です。

ところが、1970年代には、全失業者のうち約7割の方が失業手当を使えていたのですけれども、その後、失業手当の要件がどんどん厳しくなってしまった、あるいは、先にもお話ししたように、非正規の人たちが広がってしまった。その結果、今では、全失業者のうち、雇用保険の失業手当を受け取れる失業者は2割程度しかいません。カバー率が2割ぐらいまで低下しているという状況があるのです。

これは、5人失業者がいたとして、1人しか失業手当を受け取れないということを意味します。もらえない人は失業と同時に現金収入が無くなってしまうわけです。ですから、真っ先に生活に困窮してしまう。

そして、他にも病気になったときには、医療保険がありますけれども、今、国民保険でも未納者がどんどん増えてきて、そのために、病気になっても病院にかかれない、いよいよ体が悪くなって、ようやく救急車で運ばれるという方も増えてきています。

 

住宅政策の貧困

一方で、私は、ずっと住宅政策の重要性を指摘してきているのですけれども、低所得者向けの公営住宅の数というのは、どこの自治体でも削減されようとしています。日本には、もともと公的性格を持った住宅が少なく、公営住宅、UR住宅(旧公団住宅)、住宅公社の住宅などを全部ひっくるめてみても、全体の6~7%ぐらいしかない。これではセーフティネットとして機能していません。ただでさえ少ないのに、財政難を理由にどこの自治体でも公営住宅を削減しようと動いています。

ですから、本来であれば、「ハウジングプア」状態の方、「脱法ハウス」に住んでいるような人たちも、公営住宅に入れればそこで何とか生活できるわけなのですけれども、そうした支援策も活用できない。このように、様々な支援策が名目上はあるのだけれども活用できない。そうため、生活保護が、「最初で最後のセーフティネット」になってしまっている、という現状があると思っています。

 

生活保護の捕捉率の低さ

ただ、それでも、生活保護がきちんと機能していれば、最悪、餓死や凍死というような事は起こらないはずなのですけれども、残念ながら、生活保護の捕捉率、生活保護を利用できる要件を持った人のうち、実際に利用できている人の割合は、2割~3割と、研究者が推計しています。ここでも、5人のうち1人ということになってしまうわけです。つまり、5人、生活に困窮している人がいたとしても、1人しか生活保護を使えない、そうすると、4人は、セーフティネットに開いた大きな穴に落ちていってしまうという状況が生まれているわけです。

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では、その「穴に落ちた人」はどこに行くのかということなのですが、一つは、先ほどお話ししたように、生活に困窮しながら、生活保護以下の生活を強いられて、「ワーキングプア」や「ハウジングプア」になってしまう。そして更に、困窮の度合いが高まってくると路上生活になってしまったり、最悪の場合、路上で亡くなったり、餓死したり、孤立死したり、自殺に追い詰められることになってしまいます。

 

諸外国よりも低い日本の公的扶助

生活保護については、とにかく最近、マスメディアでは、「生活保護受給者が増えている。けしからん。」という論調が多いわけですが、全体の人口比、全体の利用率をみると、わずか1,8%にしか過ぎません。これは、諸外国に比べて、決して多いとは言えない、むしろ、何分の1という数になります。ドイツやフランスは、10%近くになっています。

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このグラフを見て、「スウエーデンがなぜ低いのだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません(低いといっても日本の3倍くらいですけれども)。スウエーデンは高福祉国家であり、高齢者には最低保障年金が整備されています。ですから、高齢者の方が生活保護のような公的扶助制度を利用するということが、そもそも存在しない。そのために、公的扶助の利用率が比較的低くなっています。

それに比べて、日本の場合は、生活保護世帯の5割近くを占めるのが高齢世帯です。低年金、無年金のまま高齢を迎えた方々が、生活に困窮して、生活保護を利用している、という実態があって、この傾向というのは、おそらく、今後も続いていくだろうと思っています。

今、ずっと非正規で働いてこられて、40代、50代になっている人が増えてきています。その方々が、60代、70代になったとき、おそらく年金は少ししか受け取れない。国民年金は満額が6万数千円ですから、足りない分を生活保護で補てんせざるを得ないという方々が、今後ますます増えてくるだろうと思っています。マスメディアでは、まるで怠けている人が増えてきているかのようなイメージが垂れ流されていますけれども、こうした背景にある社会構造をきちんと見ていく必要があると思います。

住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

提言・オピニオン

※2月1日に札幌で行なった講演要旨の2回目。初回はこちらです。

「孤独死」から「孤立死」へ、そして貧困拡大を見過ごした日本社会~札幌講演録①

 

「ネットカフェ難民」、そして「派遣切り」

私たちは94年から、最初は、野宿の人たちの支援を始めまして、その後、2000年代に入ってからは、路上生活の方だけではなく、路上生活の「一歩手前」の状況にある方々、ネットカフェや24時間営業のファーストフード店などに寝泊まりしていたり、友達の家を転々としている若者たちが増えているということに気づきました。

〈もやい〉は、最初にメールで相談があった、ネットカフェに住んでいる若者からメールで相談が来たのは、2003年の秋のことです。
当時は本当にびっくりしました。路上生活の人たちは夜回り(パトロール)や炊き出しなど、こちらから会いに行かなければ会えない人たちなのですけれども、ネットカフェに暮らしている若者はネットカフェでインターネットを使えるのです。自分でネット検索で〈もやい〉を探し出して、アプローチをしてくるというのは非常に驚きで、そうした新しい形の貧困が広がっているということに徐々に気づきました。

2004~05年には、20代、30代の若者たちが、生活に困窮して相談に来るという状況は珍しくなくなり、2007年には、「ネットカフェ難民」という言葉が、テレビのドキュメンタリー番組を通して、流行語にもなる状況が生まれてきました。
そして、2008年の年末、「派遣切り」の嵐が吹き荒れ、日比谷公園では、「年越し派遣村」が行われたことを覚えている方も多いかと思います。

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リーマンショックの前後は、本当に、てんてこ舞いの状況があり、多いときに月に200人の方が、全国から、まさに、「駆け込み寺」のように駆け込んでいらっしゃる状況がありました。

例えば、栃木県のキャノンの工場で派遣切りされた方や愛知県豊田市のトヨタの工場で派遣切りされた人などが相談に来ました。その人たちの多くは派遣会社が用意していた寮に暮らしていた。そのために、仕事と住まいを同時に失って、東京に行けば何とか次の仕事が見つかるのではないかということで、東京を目指して来られる。しかし、結局、所持金も尽き、ホームレス状態になって、私たちの事務所に相談に訪れるという方がたくさんいました。

一時期、私たちはスタッフの間で「野戦病院のようだ」と言っていたのですが、一番多い時で一日に50人以上の方が相談に来られたこともありました。

その後、若干、相談件数は落ち着きましたけれども、ここ2,3年は、年間900件から1千件くらいの相談を受けています。
これは、面談、実際にお会いして相談するだけでして、メールでの相談や、電話で相談を含めますと、一年間で3000件くらいの相談を受けているということになります。

 

若者たちの貧困の実態

年間約1千件の相談のうち、約3割の方々が30代以下です。なかには18才、19才の方が相談に見えるという状況もあります。18、19、あるいは20代前半で、ホームレス状態になるほど生活に困窮することは、なかなか、皆さん、ご想像がつかないかもしれませんが、実はこうした若者たちの多くが児童養護施設の出身者です。

親から虐待を受けてきた、あるいは、親が貧困状態にあって養うことが出来ない、そのために、施設で暮らせざるを得ない子どもたちがたくさんいます。ところが、日本の児童福祉では、18歳までは施設で保護してくれるのですが、基本的には、そこから先は、自分で自立しなければなりません。

また、日本は公的な給付型奨学金がないために、こうした子どもたちはなかなか大学に行けない。そのために、高校中退や高卒で社会に出ないといけない人がたくさんいます。
今、大学を出ても就職が厳しいという状況の中で、施設出身の若者たちが、高校中退、高卒で働こうとしても、なかなか安定した仕事に就くことができません。

多くの場合、工場の住み込みのような仕事に就くわけですけれども、そこの工場がつぶれてしまえば、もう、戻るところがありません。親が、経済的に余裕があれば、生活に困窮したら親元に戻るという選択肢を選ぶことが出来るわけですけれども、こうした施設出身の子供たち、あるいは、貧困家庭の子どもたちは、親に余裕がない、あるいは親から虐待を受けてきたという背景があるために戻る場所がないわけです。そのため、住み込みの仕事がなくなって住むところもなくなると、一気に、ホームレス状態になってしまいます。そうした若者たちも、たくさん私たちの所にたくさん来ています。

女性の相談もじわじわと増えてきており、以前は、全体の1割以下だったのですが、最近では、15%から2割くらいまで増えてきています。なかには、お一人ではなくて、二人世帯、ご夫婦でネットカフェで生活しているとか、親子で、車中生活をしているという状況もあり、貧困が様々な年齢層、様々な世帯の方々に広がってきているということを日々痛感しています。

私たちは、お一人ずつお話をうかがって、その方の生活状況の聞き取りを行います。そして、必要に応じて、生活保護の申請同行、一緒に窓口までついて行く活動も行なっており、年間200件ぐらい申請の同行をしています。

 

脱法ハウスの実態

若者たちの貧困については「ネットカフェ難民」という言葉が広く知られていますが、昨年から知られるようになった問題として、「脱法ハウス」という問題があります。これは特に、東京などの大都市圏で広がってきている問題です。

都市部ではアパートの入る際の初期費用(敷金、礼金、不動産手数料、火災保険料、保証料等)が高額で、東京では一般のアパートに入ろうとすると、20万から30万円くらい用意しないとアパートに入れない状況があります。アパートの入る際の最初のハードルが非常に高いのです。

それをクリアできない人たちがネットカフェで寝泊まりしたり、最近では、「脱法ハウス」といわれるような物件に暮らしています。

何が「脱法」なのかと申しますと、こうした業者の多くは、「共同住宅」ではなくて、「貸し倉庫」とか、「レンタルオフィス」という名前で人を集めています。というのも、「住宅」というふうに名付けてしまうと、住宅に課せられる建築基準法や消防法による様々な規制があります。窓をきちんと作らなければいけないとか、あるいは、部屋と部家の間の壁を、いざ火事が起こったときに耐えられるような素材にしないといけないといった規制がかかってしまう。その規制をのがれるために、「脱法」するために、「ここは住まいではなくて貸倉庫です。レンタルオフィスです」という名目で人を集めて、事実上、そこに人を住まわせる、という形態を取っています。

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ちなみに、東京でこの写真の物件、おいくらだと思いますか。この物件、一人で暮らした場合、月5万5千円です。右に2段ベッドがありますけれども、2段ベッドで上下で暮らすと、一人あたり2万8千円、二人で5万6千円。決して家賃自体は安くはないのです。

むしろ、こうした「脱法ハウス」というのは、床面積あたりの家賃では、一般の3倍くらいになっています。ですが、アパートの初期費用が払えない人たちがたくさんいるために、こうした人々をターゲットにした「貧困ビジネス」が広がってきているという状況があります。

 

ハウジングプアの全体像

これらの問題は、「ネットカフェ難民」とか「脱法ハウス」とか、色々な名前がつけられていますけれども、私は、全てをひっくるめて、住まいの貧困、「ハウジングプア」と呼んでいます。日本では残念ながら、「ホームレス」という言葉が、屋外にいる人たち、路上とか公園とか河川敷にいる人たちだけが「ホームレス」と呼ばれています。そのため、屋内のネットカフェや24時間営業のファストフード店にいる方、脱法ハウスにいる方は、行政の定義上、「ホームレス」ではないと定義されてしまいました。

 

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これがボタンの掛け違いの始まりでして、実際は、ネットカフェにいる方も、お金が無くなれば路上に行くし、路上で、例えば、ビッグイシューを売っている方も、その日売り上げが得られれば、ネットカフェに泊まります。この図の逆三角形の上と下を行ったり来たりしているのです。ですから、屋外にいる人たち、「見えやすいホームレス」、「見えるホームレス」だけを見ていても、問題の全体像はわかりません。ご本人の視点にたって、不安定な居住形態の全体をとらえる必要があると考えています。

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この問題を私は、「『ワーキングプア』であると同時に、『ハウジングプア』でもある。」と、表現しています。「ワーキングプア」という言葉は、皆さんよくご存じかと思いますが、日本の場合、最低賃金が非常に安い、そのために、なかなか働いていても、年収が200万円以下という方々が、全国で1000万人以上いらっしゃいます。

しかも、今、非正規で働いている人が働いている人全体の35.2%にまで増えています。この背景には、1999年と2003年に、二度にわたり労働者派遣法を改正して、派遣労働を広げてしまったという問題があります。今また、安倍政権下で、派遣労働を広げようというような動きが出てきていますけれども、そうなってしまうと、益々、「ワーキングプア」の人たちが増えてしまいかねないと思います。

「仕事」と「住まい」というのは、親からの仕送りを当てに出来ない低所得者にとっては、毎月働いてお金を稼いでそこから家賃を払う、「仕事」を得ることで「住まい」を確保するという車輪両輪のような関係になると思います。

しかし、この20年間に、日本の社会で起こってきた変化は、いくら仕事をしても生計を維持できない。そのために、安心して暮らせる住まいを確保することすらできない。つまり、「『ワーキングプア』であるが故に、『ハウジングプア』でもある。」という状況が、本当に多くの人たちに広がってしまったのだと思います。

そうした状況は、90年代には日雇いの建築現場で働いている50代、60代の「ホームレス」の人たちだけの問題だったかもしれないけれども、それが今は、20代、30代の人たちも含めて、多くの人たちの状況になってきました。

次に、そうした貧困状態にある方々に対してどのような支援策があるのかを、考えてみたいと思います。

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