ホームレス調査 長期・高齢化防ぐ施策を

アーカイブ

「寝る時に足を伸ばせるのが、何よりも嬉しい」、「雨露をしのげるのが一番。天気の心配をしなくても良くなった」、「やっぱり自分の『城』を持って、気持ちの面でも落ち着いてきた」

いずれも、私が支援活動の中で出会い、路上から「畳の上」に上がることのできた野宿経験者の声である。野宿者への支援策は、90年代後半から大都市を中心に実施されてきたが、02年に制定された「ホームレス自立支援法」により、自立支援策を実施することは「国の責務」になった。

十年間の時限立法である支援法の中間見直しにあたって、厚生労働省は「ホームレスの実態に関する全国調査」を実施し、先日、その報告書を発表した。同様の調査は03年にも実施されており、いわばこの報告書は、「国の責務」が果たされているかどうかの「通信簿」にあたると言ってよい。

では、その「通信簿」の結果はどうだったのであろうか。以下にポイントを見てみよう。
まず、目視調査による全国の野宿者数(調査員が確認できた数である点に留意)は、18564人と、4年前の前回調査(25296人)より、26・6%減少している。
平均年齢は57.5歳と、前回(55・9歳)より上昇。路上生活の期間も、「5年以上」が41・4%と前回(24・0%)より長期化している層が増えている。

従来から、再就職支援施設「自立支援センター」を軸とする既存の支援策では、50歳以上の「再就職困難層」が対策から取り残されるのではないかという懸念が関係者から指摘されていた。一方で、生活保護行政の現場では、稼動年齢層(65歳未満)に対して、失業を理由とした申請を認めないという違法な運用が多くの自治体でまかり通っている。

50歳以上の層が全体の約85%を占める、という調査結果が突きつけているのは、「従来型の対策の限界」に他ならない。支援策が講じられたことにより野宿から抜け出せた層は確かに存在する。だが一方で、従来型の対策を活用できず、将来への展望を見出すことができないまま、「日々生きること」に必死にならざるをえない人々が、路上には多数存在しているのである。

政府や地方自治体は、この調査結果を深刻に受け止め、中高年の野宿者のニーズにあった支援策を早急に実施すべきである。具体的には、東京都が実施しているような低家賃アパート提供事業を特定公園限定ではなく、希望者がアクセスしやすい形で大規模に実施すること(調査でも求職活動のためにアパートが欲しいという声が多い)、生活保護行政の窓口における不当な年齢制限を撤廃すること等が挙げられよう。

また私は、従来の「ホームレス自立支援策」が野宿に至ってしまった層のみを支援対象としていることも見直すべき時に来ている、と考える。私の関わっている団体では、近年、野宿には至っていないが、インターネットカフェなど不安定な居所で寝起きせざるをえないフリーターや派遣労働者からの相談が増えてきている。支援法には野宿になりかねない者への「防止策」も明記されているが、実質的には何も行なわれていない。政府は、こうした「広い意味でのホームレス層」の実態把握を急ぎ、安定した住居を確保できるための支援に踏み出すべきである。

狭くても自分の「城」と言える部屋があり、そこを拠点に暮らしを営むことができる。冒頭に引用したような「安心感」を誰もがあたり前に享受できる社会にできるかどうか。政府が、そして私たちの社会が問われているのはそのことである。

(2007年4月26日、朝日新聞「私の視点」欄掲載)

1